永住資格と扶養の関係について

2023.01.05

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外国人が日本の永住資格を取得するときには、様々な証明書類を提出します。その中でも、住民税課税証明書は、収入の証明になり、日本国内で独立して安定した生計を立てられる見込みがあるかどうかの審査資料ともなります。

永住申請で用いる住民税課税証明書では「全項目証明」を使うのが一般的です。全項目を証明する住民税課税証明書には、課税額の他、所得金額や扶養家族の人数や控除の内訳なども記載されます。

この扶養家族の人数が多いほど、扶養控除を受けられる額が大きくなるので、住民税の課税額を低く抑えられるメリットがあるのです。そこで、実際には扶養しているとはいえない家族を扶養人数に入れるケースが見られます。このような申請は認められるのでしょうか。


■そもそも「扶養」とは?

扶養とは、自分の力だけでは生活を維持できない者に対する生活上の援助のことをいいます。つまり、家族に仕送りをしたとしても、それだけで扶養ということはできません。自力で生活を維持することができる家族に対して、仕送りをしても、扶養とは評価されないのです。もちろん、住民税の課税において、その人を扶養家族としてカウントすることはできません。

民法877条1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。しかし、あくまでも日本の法律ですので、海外の祖国に住む親や兄弟姉妹を扶養する義務があるとまではいえません。適用範囲は日本国内ですし、あくまでも道義的義務として規定されていますので、経済的に困っている親や兄弟姉妹を扶養しなかったからといって、法的なペナルティを課されるわけでもありません。祖国の親への海外送金をしたという一事だけ採り上げて、扶養家族に入れるのは無理があるといえるでしょう。


■扶養家族と生計要件

永住許可を申請したときの、出入国在留管理局による審査では、扶養しているものとして申請された家族は、本当に扶養の実態があるのかどうか、あるいは扶養できるだけの十分な収入が得られているかどうかが問われます。

扶養家族が多いほど、独立して安定した所得を得られていることを示す生計要件のハードルも上がっていきます。つまり、より多くの収入が得られていなければ、永住後の生活が成り立たないだろうと判断され、永住不許可となる原因にもなりかねません。

いちおうの目安として、扶養している人物が1人増えるごとに、年間80万円ほどの収入増が必要だと考えられています。単身世帯で生計要件のハードルをクリアするには、一般に年収300万円が必要とされているので、単純計算で扶養家族が1人いれば、年収380万円以上、2人なら年収460万円以上、3人なら年収520万円以上が求められることになります。その代わりに、課税額が抑えられる控除枠が大きくなるメリットもあるのです。


■もし、扶養していない家族を扶養していることにしたら?

国外のことなら審査の手が及ばないだろうと思って、祖国に扶養すべき家族がいないにもかかわらず、定期的に送金していることにして、扶養家族の人数を水増しして申請する人もいます。ただ、出入国在留管理局の職員が、申請内容と証明書類の矛盾点に気づいて指摘をし、もし、その指摘や疑問にハッキリと答えられなかったら、扶養の不正が発覚することも十分にありえます。そうなると、永住が不許可になったり、いったん永住許可が出ても後で取り消されたりする場合もあります。

2016年以降は、永住許可申請の証明書類として、戸籍に相当する海外の公的証明書やパスポートのコピーなどを含む「親族関係書類」や、金融機関の通帳のコピーや出入金履歴などを含む「送金関係書類」が追加されましたので、扶養人数の水増しがより発覚しやすくなっています。

一度、虚偽の申請が発覚すれば記録に残りますので、今後、在留資格の申請や更新をしても、かなり警戒されてしまうリスクがあります。安易に不正や虚偽に手を染めてはいけません。


■もし、本当に海外の家族を大勢扶養していたら?

中には、祖国にいる大勢の家族に仕送りをするために、日本に永住して働いている外国人もいるでしょう。たとえば、5人~10人以上の扶養家族がいるのは事実だけれども、審査する職員からかえって怪しまれる人数で、正直に申告しにくいと感じる人もいるかもしれません。

その場合は、海外の扶養家族の人数が多いことを説明する理由書を作成して、申請書などに添付するのが効果的です。理由書を書くのが難しいと感じるならば、行政書士に事情を話して、代筆してもらいましょう。経験豊富なプロの視点から、わかりやすく伝わるよう執筆してもらえるはずです。


■過去に申告した扶養家族の人数を修正するには?

扶養家族の人数が実態より多すぎたり、実際に減っていたりする場合には、住所地を管轄している税務署(国税の場合)、あるいは市区町村役場・役所(地方税の場合)に出向いて修正申告を行いましょう。