永住者に「帰国権」は認めるべきか? それとも……?

2023.01.05

カテゴリ

ブログ

日本に永住することを決めた外国人は、日本に帰化して日本国籍を得た外国人とは、性質が大きく異なります。日本に永住する外国人は、あくまでも祖国に国籍を置いている立場だからです。

日本の出入国管理当局は、永住者を含む外国人が海外旅行や出張、里帰りなどで出国するときにはほとんど審査しませんが、日本に再入国しようとすると、たとえ永住者であっても厳しく審査します。再入国許可・みなし再入国許可といった救済策はありますが、定められた期限までに日本へ戻らなければ、永住資格を取り消すペナルティも課しているのです。

こうした規制は、永住者における海外への居住ならびに移転の自由を、事実上制約しているようにも思えます。日本での永住を認めたのなら、日本への再入国もスムーズに認めるのが本筋です。実際、国連の委員会ではそのような議論がなされています。しかし、その議論に日本政府は反対の立場を表明してきました。永住者の「帰国権」をめぐっては、どのような背景があるのでしょうか。

1980年代、国際連合の差別防止・少数者保護小委員会においては「自国を含むいずれの国からも離れ、自国に帰るすべての者の権利における自由と非差別に関する宣言」の草案第11条で「(この宣言第7条に基づいて適用されるのと同様の正当な理由を除き、)居住国を離れる合法的永住者は、その国に帰る権利を否定されない」と規定しています。つまり、永住者の「帰国権」を国際ルールとして定めようとしていたのです。

一方で、日本政府は1989年の段階から「いずれの国にも入国する外国人の権利は、この宣言草案で規定されるべきではない」「国際法上、外国人の入国を認めるか否かは、各国家の裁量に任されているのだから、合法的永住者たる外国人についても、その扱いは同様である」という反対の立場を取り続けてきました。この立場は30年以上経った現代でも、依然として変わっていません。

永住者の帰国権について、賛成派と反対派の根拠、ならびにそれぞれの反対意見として考えられるところは、次の通りです。

■永住者の帰国権 賛成派

一般論として、外国に入国する権利は、居住・移転の自由として保障される側面が強いと考えられます。入国を受ける側の管理当局も、自国の治安を維持して主権を守るために、入国者に対して厳しい審査を行うことも正当化されるでしょう。

ただし、日本の永住権を持っている外国人が、日本に再入国するのは、事実上の「帰国」なのであって、海外旅行者など短期滞在者の入国とは訳が違います。日本の永住を認めておきながら、日本への再入国に関して厳しく臨むのは、一種の矛盾した態度とも思えます。

外国人が永住している国には、その家族も住んでいる可能性が高いです。永住者の再入国を厳しくすれば、永住者は家族と自由に会うことすらできず、その幸福追求権を侵害する結果にもなりかねません。つまり、帰国権は家族や社会との繋がりと密接に関連しており、日本で暮らし続ける上で重視されるべき利益です。

永住者は事実上、日本人とほとんど変わらない生活を送っています。在留資格の更新が必要ありませんし、国内での就労や活動の内容にも制限がないからです。そうした永住者の再入国を認めないのは、日本国民に海外旅行の自由を与えないのと同じです。

(反論案)

永住者が日本から出国し、戻ってくることは帰国ではなく、再入国です。外国人の再入国は権利と認められず、独立した主権国家の裁量によって、拒否や制限ができるものでもあります。

永住者はあくまでも外国人であって、日本国民と同等の権利を保障すべきことは憲法が想定していません。

■永住者の帰国権 反対派

日本の永住者といえども、外国人であることには違いないので、永住者の出国や再入国を、日本国民に保障されている海外旅行の自由と同等に扱うことはできません。外国人の再入国の自由が憲法で保障されていないのは、昭和61年の最高裁判所の判例(森川キャサリーン事件)で明らかとなっています。

日本では、外国人が出国しようとするとき、出国前に再入国の許可について審査しています。仮に再入国が不許可になったとしても、まだ出国していないので外国人を日本から閉め出す結果には鳴っていません。たとえ、外国人の再入国の自由を認める国が他国にあったとしても、これは独立国家の主権の問題ですので、日本は独自の裁量で出入国ルールを策定できます。

(反論案)

そもそも、森川キャサリーン事件の最高裁判決は、問題が多いです。背景がまるで違う事件における過去の判例を引用して、単に同調しているだけですので、根拠が薄いといえます。

出国前に再入国の許可を出さないという運用は、外国人の再入国の自由だけでなく、出国の自由まで事実上制約しています。むしろ、再入国の許可を出せないほどに日本国にとって好ましくない外国人を、出国させないという運用なのであって、論理矛盾の結果を引き起こしているとも評価できるのです。

皆さんはどうお考えでしょうか。永住者を外国の国籍の持ち主と考えるか、日本社会の構成員と考えるかで、結論は変わってくるように思います。