留学生が経営管理ビザを取得できる?変更時の要件や問題点、注意点を解説!

留学生は日本の教育機関を卒業後に起業し、経営管理ビザへの変更を目指すことが可能です。経営管理ビザには学歴要件がないため、学生起業した方や中退した方も経営管理ビザの取得を目指せます。
一方、留学生が経営管理ビザを取得するのは、「学生から経営者へのシフト」という特殊性から、容易ではありません。実際、多くの留学生が高い審査ハードルに挫折し、申請すらも諦めているという実情があります。
こうした事情を踏まえ、本記事では、留学ビザから経営管理ビザへ変更する際の要件のほか、変更時の問題点や注意点について解説します。留学生が在留期限までに経営管理ビザを取得できない場合の対策についても解説するため、ぜひ参考にしてください。
留学ビザから経営管理ビザへの変更は可能
結論から言うと、留学ビザから経営管理ビザへの変更は可能です。
実際、出入国管理及び難民認定法では、「留学ビザの在留資格者は就職しなければならない」といった要件が規定されていません。また、同法では、経営管理ビザに大学卒業要件を課していないため、高卒でも経営管理ビザを取得できます。
なお、日本に在留する留学生は多くの場合、3月に学校を卒業するため、4月か5月ごろにビザの有効期間が切れてしまいます。したがって、経営管理ビザを取得するためには、計画的に準備を進めることが重要です。
留学ビザから経営管理ビザへ変更する際の要件
留学ビザから経営管理ビザへ変更する際の要件には、次の5つがあります。
- 事務所の確保
- 一定以上の事業規模がある
- 事業の安定性・継続性を証明できる
- 申請者が実質的に経営へ参画している
- 事業者としての義務を履行している
いずれも通常の経営管理ビザを取得する際に課される要件です。ぜひ参考にしてください。
事業所の確保
経営管理ビザを取得するためには、事業拠点とする事務所を確保しなければなりません。
事務所については、総務省が定める日本標準産業分類一般原則に基づき、次の要件を満たす必要があります。
- 経済活動が単一の経営主体のもとで一定の場所すなわち一区画を占めて行われていること
- 財貨およびサービスの生産または提供が、人および設備を有して、継続的に行われていること
この2点を満たしている事務所については、上陸基準省令の「事務所の確保」に適合しているものと認められます。
ただし、経営管理ビザの活動では、事業の継続性が重要なことから、月単位の短期間賃貸スペースや、容易に処分可能な屋台は、法定上の事務所とみなされません。
一定以上の事業規模がある
経営管理ビザを取得するためには、一定以上の事業規模であることが求められます。
上陸基準省令によれば、具体的には、「常勤職員の2名以上の雇用」か、「500万円以上の資本金」のいずれかを満たす必要があります。資本金は必ずしも100%自己資金である必要はありませんが、資本金の出所については厳しく審査されます。
資本金の出所の審査時に、オーバーワークなどが判明したら、経営管理ビザ申請が不許可になるだけに留まらず、留学ビザが取り消しになるリスクがあります。十分に注意しましょう。
事業の安定性・継続性を証明できる
経営管理ビザを取得するためには、事業の安定性・継続性を証明しなければなりません。
会社を新設する場合は、申請時に提出する事業計画書の内容をもとに審査されます。したがって、提出する事業計画書は、第三者に事業の安定性・継続性が伝わるよう、競合分析や売上の見通しなどをしっかりと記載しましょう。
また、既存会社の場合は、直近の決算期末で赤字でないか、債務超過になっていないかといった点が審査されます。債務超過が生じている場合、中小企業診断士や公認会計士などの専門家による評価書を添付する必要があるため、十分に留意しましょう。
申請者が実質的に経営へ参画している
経営管理ビザを取得するためには、申請者が実質的に経営へ参画している事実を証明する必要があります。
ここでいう実質的な経営参画とは、事業の運営に関する重要事項の決定を行っていることを指します。事業の売上を左右する経営の意思決定だけでなく、事業の監査業務への従事でも、問題ありません。
つまり、経営管理ビザを取得するうえでは、申請者が名目・実質の両面で、経営に参画していることが重要です。逆に、全く経営活動をしていない経営者・役員は、実質的な経営参画が認められず、経営管理ビザを取得できません。
事業者としての義務を履行している
経営管理ビザを取得するためには、事業者としての義務を適正に履行していなければなりません。
事業者としての義務の履行は、具体的に次のような行為を指します。
- 国税(所得税、法人税など)および地方税(住民税など)を適切に納付する
- 雇用する従業員の労働条件が労働関係法令に適合している
- 労働保険の適用事業所である場合は、労働保険の加入手続きを適正に行い、保険料を適切に納付する
- 健康保険および厚生年金保険の適用事業所である場合には、雇用する従業員の健康保険および厚生年金保険の資格取得手続きを行い、保険料を適切に納付する
留学ビザから経営管理ビザに変更する際によくある問題点
留学ビザから経営管理ビザに変更する際によくある問題点には、次の4つがあります。
- 過去のオーバーワーク
- 学校を卒業できない
- 卒業してから相当期間が経過している
- 事業が継続できるか疑問を持たれる
これらの問題が判明すると、経営管理ビザが取得できない可能性があります。十分にご注意ください。
過去のオーバーワーク
起業資金をためる目的でオーバーワーク(週28時間超のアルバイト)をしていた場合は資格外活動違反となり、経営管理ビザ申請が不許可となります。
近年、申請先の地方出入国在留管理局でのオーバーワークの取り締まりが厳格化しているため、オーバーワークの程度によっては、リカバーが困難な場合が増えています。さらに、オーバーワークの態様によっては、素行不良を理由に出国を促される場合があるため、アルバイト時間の管理にご注意ください。
学校を卒業できない
日本の教育機関を卒業できず退学、除籍になっている場合、経営管理ビザへの変更は難しくなるといわれています。入管審査では、素行の良し悪しも審査されるためです。
実際、教育機関を卒業できない理由がオーバーワークや授業の出席不足による成績不良の場合は、出入国管理及び難民認定法に違反しているとみなされ、出国を選ばざるを得ないケースも少なくありません。
留学ビザから経営管理ビザに変更する際は、経営管理ビザの要件を充足させることだけに目が向きがちです。しかし、実際の入管審査では、留学ビザの活動状況も審査されるため、ご注意ください。
卒業してから相当期間が経過している
留学生が日本の教育機関を卒業してから3カ月以上を経過した後、経営管理ビザの取得申請をする場合は、在留資格自体が取り消されるリスクがあります。
出入国管理及び難民認定法第22条の4によれば、留学生が教育機関を卒業してから3カ月以上経過している場合は、在留資格の取消事由があるとみなされるためです。
このようなケースでは、留学ビザが取り消されるケースはほとんどありません。それでも、在留資格の取消事由があることに変わりはないため、経営管理ビザを取得したい場合は、日本の教育機関を卒業後3カ月以内にビザ申請しましょう。
事業が継続できるか疑問を持たれる
留学ビザから経営管理ビザへ変更する場合は、入管審査で、審査官に事業を継続できるか疑問を持たれる可能性があります。留学生の多くはビザの制約もあり、経営の経験がないためです。
したがって、留学生は、事業計画書だけでなく、任意の疎明資料を通じて、事業の持続性・継続性を証明することが重要です。事業の持続性・継続性を証明する疎明資料としては、取引先との契約書や覚書、収支計画書などを提出すると良いでしょう。
留学ビザから経営管理ビザへ変更する際の注意点
留学ビザから経営管理ビザへ変更する際の注意点には、次の3つがあります。
- 学校の出席率や成績が悪いと不許可になりやすい
- 資本金500万円の出所を証明する必要がある
- ビジネス経験が乏しい場合は綿密な事業計画書が必要
これらの注意点に留意すると、経営管理ビザが許可される可能性が高くなります。ぜひ参考にしてください。
学校の出席率や成績が悪いと不許可になりやすい
留学ビザから経営管理ビザへ変更する場合、学校の出席率や成績が悪いと不許可になりやすい傾向があります。入管審査で、「引き続き在留する目的で、学歴要件のない経営管理ビザの取得を目指しているのでは」とみられる可能性があるためです。
こうした背景により、経営管理ビザの取得を申請する留学生は、出席簿や成績証明書の提出を求められる場合が少なくありません。
これらの書面の提出を求められた場合は不許可を回避するためにも、素直に応じましょう。
資本金500万円の出所を証明する必要がある
経営管理ビザの取得を目指す留学生はご多分に漏れず、資本金500万円の出所を証明しなければなりません。
留学生は原則就労やオーバーワークができないため、500万円以上の出資金をどのように集めたのか入管審査で説明する必要があります。
留学生が日本で起業する場合、現実的には本国の両親や親戚などから資金を援助、貸付してもらうケースが多いとされます。その場合は、銀行の通帳や送金履歴、贈与契約書、金銭消費貸借契約書などで金銭授受の流れを証明しなければなりません。
なお、銀行法に基づく免許を持たず、不正に海外に送金する地下銀行を介した送金は原則、正式な送金として認められないため、ご注意ください。
ビジネス経験が乏しい場合は綿密な事業計画書が必要
専門知識の証明が難しいうえに、ビジネス経験も乏しい場合は綿密な事業計画書を作成する必要があります。経営者としての資質を資金面や経歴で証明するのが難しいことから、事業計画書の精度が入管審査で最も重要になるためです。
事業計画書で、事業の将来的なビジョンを示したうえで、自分の学んだことや専門性をアピールできれば、留学生であっても決して不利ではありません。逆にいえば、専門家によるレビューを受けておらず、テンプレ通りの内容しか記載されていない事業計画書を提出した場合は、申請許可を受けにくくなるといえます。
留学生が在留期限までに経営管理ビザを取得できない場合の対策
留学生が在留期限までに経営管理ビザを取得できない場合の対策には、次の2つがあります。
- 大学・大学院の卒業生・修了生を対象にした制度を利用して卒業後6カ月間滞在する
- 優秀な留学生の受け入れに意欲的な大学等を対象にした制度を利用して卒業後最長2年間滞在する
これらの制度はすべての留学生が利用できるわけではありません。それでも、卒業後も経営管理ビザの取得を目指す留学生は留意しておくとよいでしょう。
大学・大学院の卒業生・修了生を対象にした制度を利用して卒業後6カ月間滞在する
大学の学部または大学院を卒業後6カ月以内に、会社を設立して経営管理ビザの取得を目指す留学生は、一定の要件を満たす場合に、最長で卒業後6カ月滞在できます。
この措置を受けるための対象者要件は次のとおりです。
在留資格「留学」をもって在留する日本の学校教育法上の大学(短期大学を除く)の学部または大学院を卒業・修了した者であること。 在学中の成績及び素行に問題がなく、在学中から起業活動を開始しており、大学が推薦する者であること。 事業計画書が作成されており、当該計画書および会社または法人の登記事項証明書その他の書面により本邦において開始しようとする事業内容が明らかであり、卒業後6月以内に、会社法人を設立し起業して経営管理ビザに在留資格変更許可申請を行うことおよび申請内容が経営管理ビザの要件にも適合することが見込まれること。 滞在中の一切の経費を支弁する能力を有していること。 |
出典:出入国在留管理庁「本邦の大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する方」
そのうえで、事業規模、物件調達、起業支援、在留管理の各項目にかかる要件を満たす必要があります。
詳細は、出入国在留管理庁の「本邦の大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する方」をご確認ください。
優秀な留学生の受け入れに意欲的な大学等を対象にした制度を利用して卒業後最長2年間する
優秀な留学生の受け入れに意欲的な日本の大学等に在籍中から起業活動をしていた留学生が一定の要件を満たす場合に、在留資格「特定活動」による最長2年間の在留が認められます。
具体的な要件については、次のとおりです。
申請人が日本で優秀な外国人留学生の受け入れに意欲的に取り組んでいるとされる「留学生就職促進プログラム」の採択校もしくは参画校または「スーパーグローバル大学創生支援事業」の採択校(大学、大学院、短期大学または高等専門学校)を卒業または修了していること 申請人が上記1の大学等に在学中から起業活動を行っていたこと。 上記1の大学等が、申請人が起業活動を行うことについて推薦すること。 上記1の大学等が、申請人の起業活動について支援をすること。 申請人が起業活動の状況を上記1の大学等に報告すること。 上記1の大学等が申請人の起業活動の継続が困難になった場合に帰国指導・支援を行うこと。 |
出典:出入国在留管理庁「本邦の大学等を卒業した留学生による起業活動に係る措置について」
大学等の卒業後、在留資格「特定活動」による在留は、外国人起業活動促進事業または国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業を利用する場合でも実現できます。
詳細は、出入国在留管理庁の「本邦の大学等を卒業した留学生による起業活動に係る措置について」をご確認ください。
まとめ
留学ビザから経営管理ビザへの変更は、難易度が高いとされます。そのため、基本的に社会人経験を積んでからの挑戦が推奨されますが、決して不可能ではありません。
入念に準備すれば、ビザ変更に成功する可能性はあります。ただし、繰り返しますが、留学ビザから経営管理ビザへの変更は難易度が高いため、申請前に行政書士をはじめとした在留資格の専門家に相談することをおすすめします。
記事の監修者

Eight Links 行政書士事務所 所長
蜂須賀 昭仁
2016年9月〜
VISA専門行政書士事務所
「Eight Links 行政書士事務所」を開業
専門分野 外国人在留資格申請、帰化許可申請
外国人の在留資格申請を専門分野とし
年間500件以上の相談に対応
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