経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に?改正案の内容や影響、更新申請の新ルールも解説!

出入国在留管理庁は2025年8月26日、経営管理ビザの取得要件を大幅に厳格化する改正省令案を公開するとともに、意見公募(パブリックコメント)を開始しました。同庁は9月25日までの意見公募を経て、10月中旬の施行を目指すとしています。

改正省令案でとりわけ大きな議論を呼んでいるのが、現行の500万円以上から3,000万円以上に引き上げる資本金要件の引き上げです。資本金要件の引き上げにより、今後日本で起業する外国人は大幅に減少すると考えられています。

こうした実情を踏まえ、本記事では、改正省令案の内容のほか、経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に引き上げられることによる実務的影響について解説します。2025年7月17日から導入された、更新審査の新ルールについても解説するため、ぜひ参考にしてください。

経営管理ビザの取得要件を厳格化する改正省令案の内容とは?

経営管理ビザの取得要件を厳格化する改正省令案の骨子は、次の3つです。

  • 従業員の雇用義務と資本金要件の引き上げ
  • 学歴・経験・実績要件の拡大
  • 専門家による事業計画書の確認義務付け

いずれも、経営管理ビザの申請数や許可率に大きな影響を与える可能性がある大きな変更です。ぜひ参考にしてください。

従業員の雇用義務と資本金要件の引き上げ

現行法では、事業規模の要件は、「資本金500万円以上」か、「常勤職員2名以上の雇用」のいずれかをクリアすれば、充足できました。

しかし、改正省令案では、常勤職員1名以上の雇用が義務になるほか、資本金の要件が500万円以上から3,000万円以上に引き上げられる方向で調整されています。

これまで多くの経営管理ビザの申請者は、資本金要件の充足をもってビザを取得してきました。こうした背景を考えると、資本金要件の厳格化と従業員の雇用義務というダブルパンチは極めて大きな変更といえます。

学歴・経験・実績要件の拡大

現行法では、学歴・経験・実績要件は、大学院で経営または管理にかかる科目を専攻した期間を含む3年以上の経験をもって充足できました。

しかし、改正省令案では、「修士号以上の学位」または「3年以上の経営または管理の経験」で、同要件を満たせられる方向で、調整が進んでいます。

つまり、新たに経営管理ビザを取得する申請者は、これまで以上に専門性や経営に関する経験が求められる模様です。

専門家による事業計画書の確認義務付け

現行法では、経営管理ビザの取得申請にあたって提出する事業計画書は、特段、中小企業診断士や公認会計士といった専門家による確認を必要としていませんでした。

しかし、改正省令案では、提出する事業計画書は、中小企業診断士や公認会計士など、経営に関する専門知識を持つ専門家による事前確認が必須となります。これにより、申請のハードルは上がり、「経営状況が良好であれば問題ない」という形式的な申請が通用しなくなる可能性があるでしょう。

経営管理ビザの厳格化は2025年10月中旬ごろから

改正省令案によれば、経営管理ビザの取得要件の厳格化はパブリックコメントを経て、次のスケジュールに沿って実施される予定です。

公布日:2025年10月上旬

施行日:2025年10月中旬

ただし、「公布後、数カ月の準備期間を設ける方針」という情報もあるため、本格的な厳格化まで、一定の猶予期間があると考えられます。

経営管理ビザの取得要件が厳格化される背景

経営管理ビザの取得要件の厳格化には、次の3つの背景があります。

  • 経営管理ビザの悪用への対策強化
  • 国際的な水準への同調
  • 経営の実態を重要する審査方式へのシフトチェンジ

これらの背景を把握すると、経営管理ビザの取得要件が厳格化される背景が理解しやすくなります。ぜひ参考にしてください。

経営管理ビザの悪用への対策強化

経営管理ビザの取得要件の厳格化には、第一に制度を悪用する事例が多発していたという背景があります。

実際、現行法では、資本金要件を満たせば、比較的簡単に会社設立が可能であり、経営実態のないペーパーカンパニーを設立して在留資格を取得するといった悪質な事例が後を絶ちませんでした。

こうした事例は、「日本で事業を展開し、経済社会に貢献する外国人を受け入れる」という方針に反し、制度の信頼性を損ねる結果を招いています。こうした背景を踏まえ、経営管理ビザの取得要件が厳格化されることになりました。

国際的な水準への同調

経営管理ビザの取得要件の厳格化には、起業家ビザの取得要件を国際的な水準に近づけたいという政府の狙いがあります。

実際、必要な投資額は韓国が3億ウォン(約3,200万円)以上、米国が10万〜20万米ドル(約1,500万〜約3千万円)以上とされるなど、日本と海外先進諸国の間にある起業家ビザの要件の差は、大きいとされます。

こうした背景を踏まえ、日本政府は、資本金要件をはじめとした取得要件を厳格化し、起業家ビザの取得要件を国際的な水準に近づけることにしました。そのうえで、政府は、取得要件の厳格化を通じて、質の高い起業家を日本に呼び込みたい考えです。

経営の実態を重視する審査方式へのシフトチェンジ

経営管理ビザの取得要件の厳格化には、経営の実態を重視する審査方式へのシフトチェンジがあります。

実際、これまでの経営管理ビザでは、チェックリストをもとに定款や事業計画書などに記載された内容を精査する形式審査が主に採用されており、経営の実態が審査されているとは言い難い状況でした。

こうした状況を踏まえ、政府は今回、学歴・実績・経験要件の拡大や専門家による事業計画書の確認義務付けなどを通じて、経営管理ビザの審査方式を経営の実態を重視する運用へとシフトする方針を示しました。

こうした審査方式のシフトチェンジは、政府が世界中から広く起業家を募る「量」の追求から、経済的影響力の大きい、グローバル企業を厳選する「質」の追求へと、明確に方向転換したことを示しているといえます。

経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に引き上げられることによる実務的影響

経営管理ビザの資本金要件が3,000万円に引き上げられることによる実務的影響には、次の2つがあるとされます。

  • 外国人起業家による起業のハードルが大幅に上がる
  • 既存の経営管理ビザ保持者への更新審査が厳格化される

これらの実務的影響は、今後日本での会社設立を目指す外国人起業家の経営判断にも大きな影響を与えると考えられます。ぜひ参考にしてください。

外国人起業家による起業のハードルが大幅に上がる

資本金要件が500万円から3,000万円に引き上げられることで、外国人起業家による起業のハードルが大幅に上がります。経済的に豊かな先進諸国の起業家にとっても、3,000万円の資本金準備はハードルが高いためです。

3,000万円の資本金要件がいかにハードルが高いかは、日本の政府統計を見ても明白です。たとえば、総務省・経済産業省の2021年経済センサスによれば、調査した177万7,291社のうち、資本金が3,000万円以上に上る会社の割合は、わずか8.7%に過ぎません。

こうした実態を踏まえると、経済大国の米国の起業家だとしても、3,000万円以上の資本金を用意することは簡単ではないと容易に想像できるでしょう。

政府は表立って主張していませんが、今回の資本金要件の引き上げは、日本市場に参入する企業を事業規模の大きいグローバル企業に絞るという意図が感じられます。

既存の経営管理ビザ保持者への更新審査が厳格化される

資本金要件が500万円から3,000万円に引き上げられることで、既存の経営管理ビザ保持者への更新審査が厳格化される可能性があります。資本金要件の引き上げにより、保持者に対しても、「実質的な経営能力・資本力」が問われるケースが増えると予想されるためです。

現行法では、資本金の保有状況は更新時にチェックされません。そのため、今後法改正がない限り、当初500万円の資本金で設立した会社で経営管理ビザを取得した場合、3,000万円に増資しないと更新できない、といった遡及的な運用はないと考えられます。

しかし、経営の実態を重視する審査方式にシフトチェンジするなかで、「実質的な経営能力・資本力」が問われるケースが増え、結果として更新審査が厳格化される可能性があります。

【2025年7月義務化】経営管理ビザの更新審査の新ルールとは?

経営管理ビザの取得要件の厳格化に加え、経営管理ビザで見逃せない変化とされるのが、2025年7月17日から導入された、更新審査の新ルールです。

ここからは、更新審査の新ルールについて解説します。

「直近の経営・管理活動説明書」の提出が必須に

2025年7月17日からは、経営管理ビザの更新時に、次のような文書提出が必須となりました。

  • 直近の在留期間における事業の経営または管理に関する活動を具体的に説明する文書
  • 前回の在留申請時から変更がある場合はその理由の説明

これらの文書の提出義務化は、事業の実体性・継続性を確認するための措置だと考えられます。また、偽装経営を防止するとともに、ペーパーカンパニーの所有者による不適切なビザ継続を排除する狙いがあると推察されます。

経営の実態もチェックされるように

2025年7月17日からは、事業活動の具体性や経営者本人の関与度などが細かくチェックされるようになりました。前述のとおり、政府は偽装経営を防ぐとともに、ペーパーカンパニーの所有者による不適切なビザ継続を排除したいと考えているためです。

更新審査の方針が大きく変わるなかで、形式的に会社を維持しているだけのケースや経営実績が基準未満に満たないケースでは、更新が認められないリスクが高まっています。

まとめ

今回の改正では、既存のビザ保持者に適用されるといった遡及的な運用がされる可能性は低いとされています。

しかし、既存のビザ保持者への更新審査が厳格化される可能性は十分にあります。それは、今年7月に更新審査の新ルールが導入された経緯を見ても明白です。

つまり、外国人起業家への選別基準が厳格化されるなかで、経営管理ビザの保持者は今後、厳しい状況に置かれる可能性があると言っても過言ではありません。

こうした状況を踏まえ、既存のビザ保持者は行政書士をはじめとした在留資格の専門家の力添えを受けながら、次回の更新審査に向けた準備を着々と進めることをおすすめします。

記事の監修者

Eight Links 行政書士事務所 所長
蜂須賀 昭仁

2016年9月〜
VISA専門行政書士事務所
「Eight Links 行政書士事務所」を開業
専門分野 外国人在留資格申請、帰化許可申請
外国人の在留資格申請を専門分野とし
年間500件以上の相談に対応

講師実績
広島県行政書士会国際業務協議会 担当講師
中華人民共和国遼寧省鉄嶺市(外国人会社設立・経営管理)についての講師

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運営HP
広島外国人ビザ相談センター
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