個人事業主として経営管理ビザを取得する方法とは?要件や事業規模の証明方法も解説!

個人事業主であっても経営管理ビザを取得することは可能です。
しかし、法人を設立して500万円以上の資本金を出資する場合と比べて、個人事業主が申請時点で500万円以上の事業規模があることを立証するのは容易ではありません。また、個人事業主は安定した財務計画を対外的に証明するのが難しいこともあり、不許可になりやすいとされます。
こうした事情を踏まえ、本記事では、個人事業主が経営管理ビザ申請時に事業規模を証明する方法のほかに、個人事業主が経営管理ビザ申請で不許可になるケースについて解説します。個人事業主での経営管理ビザ取得に不向きな事業や、個人事業主で経営管理ビザを取得する際の留意点についても解説するため、ぜひ参考にしてください。
個人事業主で経営管理ビザは取得できる
法人を設立せず、個人事業主で経営管理ビザを取得することができます。
しかし、個人事業主での経営管理ビザの取得は、すべての外国人が可能なわけではありません。留学生が卒業後に個人事業として事業を始めるか、技術・人文知識・国際業務ビザや技能ビザといった就労ビザで働いていた被用者が個人事業として開業する場合に限られます。
つまり、個人事業主での経営管理ビザの取得は、在留資格変更許可申請での取得に限られます。海外在住からいきなり日本で起業する在留資格認定申請の場合は、個人事業主で開業できません。
在留資格変更許可申請での取得に限られるのは、個人事業の開業届を税務署に提出するときに事前に住所登録を済ませておく必要があるためです。
なお、4カ月の経営管理ビザは会社を設立する申請者を対象としているため、個人事業主でのビザ取得を目指す方は取得できません。
個人事業主が経営管理ビザを取得できる要件とは?
個人事業主が経営管理ビザを取得できる要件は、通常の場合と変わりません。具体的に言えば、上陸基準省令に記載された次の項目です。
一 申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること。ただし、当該事業が開始されていない場合にあっては、当該事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること。 二 申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること。 イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する二人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。 ロ 資本金の額又は出資の総額が五百万円以上であること。 ハ イ又はロに準ずる規模であると認められるものであること。 三 申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について三年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し、かつ、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。 |
出典:e-GOV法令検索「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」
個人事業主には、資本金という概念がありません。したがって、個人事業主の申請者は、イ(2名以上の常勤職員の雇用)か、ハ(イまたはロに準ずる規模)で、事業規模を証明する必要があります。
個人事業主の場合に事業規模を証明する方法
個人事業主が経営管理ビザ申請時に事業規模を証明する方法には、次の2つがあります。
- 「2名以上の常勤職員の雇用」を雇用契約書で証明する
- 「500万円以上の投資」を必要な人的・物的設備の投下金額で証明する
いずれも、大型融資を受けにくい個人事業主が証明する方法としてはハードルが高いとされますが、決して証明が不可能というわけではありません。ぜひ参考にしてください。
「2名以上の常勤職員の雇用」を雇用契約書で証明する
事業規模の要件にあたる「2名以上の常勤職員の雇用」については、常勤職員との雇用契約の事実を証明する文書を地方出入国在留管理局に提出することで、証明します。
ここでいう雇用契約の事実を証明する文書は厳密に言えば、雇用契約書を指しますが、経営管理ビザの新規申請時点で、すでに雇用していることまでは求められません。提出する雇用契約書は、あくまでも「ビジネスを始めたら遅滞なく常勤職員を雇う」というスタンスを地方出入国管理局に示す文書と理解しましょう。
なお、雇用予定の常勤職員は日本人、外国人のいずれでも構いません。ただし、外国人の場合は、特別永住者のほか、永住者や永住者の配偶者等、日本人の配偶者等、定住者の在留資格者が対象となるため、注意しましょう。
「500万円以上の投資」を必要な人的・物的設備の投下金額で証明する
個人事業主には資本金という概念がないため、「500万円以上の投資」を対外的に証明する必要があります。
ここでいう500万円以上の投資とは、事業を始めるために必要な人的・物的設備に投下された資金の総額を指します。具体的には、事務所・店舗の確保、備品の仕入れにかかる経費、職員の給与などです。
これらに費やした費用を積算し、事業への投下金額が500万円以上であることを領収証や雇用契約書などで地方出入国在留管理局に示す必要があります。
ただし、商品の仕入れにかかる費用は投下費用に含まれないことに注意してください。たとえば、小売業を始めるために購入した商品の費用は投下費用に含まれません。仕入れにかかる費用は変動費にあたることから、事業規模を証明する費用にならないためです。
個人事業主での経営管理ビザ取得に不向きな事業
個人事業主での経営管理ビザ取得に不向きな事業は、IT関連やコンサルティングサービスといった、原価が少ない業態です。
これらの業態は多額の初期費用が発生しないことから、500万円以上の投資を対外的に証明するのが困難です。そのため、個人事業主よりも、会社法人の代表者として経営管理ビザを取得するほうが向いているといえます。
逆に、飲食業や設備工事業といった初期投資額が大きい業態は、500万円以上の投資を証明しやすいことから、個人事業主での経営管理ビザ取得が向いているといえるでしょう。
個人事業主が経営管理ビザ申請で不許可になるケース
個人事業主が経営管理ビザ申請で不許可になるケースには、次の5つがあります。
- 事業計画書の精度が甘い
- 財務計画が不安定
- 事務所の実態がない
- 経営者としての適性に欠ける
- 在留資格の履歴に問題がある
これらのケースは、会社を設立して経営管理ビザを申請する際にもみられるケースです。ぜひ参考にしてください。
事業計画書の精度が甘い
事業計画書の精度が甘いと、経営管理ビザ申請は不許可になりやすくなります。「市場・競合分析に具体性がない」「収支計画の採算が合っていない」といった、内容の伴わない事業計画書は、事業の持続性・継続性がないと判断されるためです。
事業の持続性・継続性がないと判断されないためには、売上や市場規模、収益予測といった数値を具体的な根拠や裏付けをもとに計算することが大切です。客数や客単価も、市場調査や競合調査での調査結果をもとに予測を立てて、説得力のある形で記載しましょう。
事業計画書の精度を高めるための方法は、これだけではありません。中小企業診断士や税理士といった経営の専門家からレビューを受けるという方法も有効です。レビューを受けた後に専門家の署名を入れてもらえれば、より信頼性の高い事業計画書が完成します。
財務計画が不安定
財務計画が不安定だと、経営管理ビザ申請は不許可になりやすくなります。入管審査では、事業の持続性があることを示す明確な財務データの提出を求められるためです。
財務計画とは、損益計算書や貸借対照表、人員計画、販売予測、収入予測、損益分岐点分析などの情報のことです。これらの情報が不従分だったり、収支が赤字だったりすると、経営管理ビザの取得が難しくなる可能性があります。
経営管理ビザ申請が不許可にならないためには、目標から逆算した財務計画を作成することが大切です。具体的には、目標達成に必要な原価を組み込んだうえで、楽観的、悲観的、最も発生確率が高いシナリオと幅をもって財務計画を作成します。
このほか、キャッシュフロー計画書と資産に着目し、入金される売掛金がない場合や、不測の事態が起きた場合の計画も作成しておくとよいでしょう。不測の事態に対する計画を作成しておけば、リスク管理がしっかりできる経営者だと評価されやすくなります。
事務所の実態がない
事務所の実態がない場合は、経営管理ビザの申請が不許可になる可能性が高くなります。申請者が事業を運営する意思がなく、在留資格の取得のみを目的として申請しているとみなされるためです。
会社の設立登記がない個人事業主は、会社と比べて信頼性に欠ける傾向があります。それだけに、経営管理ビザの取得を目指す個人事業主は、事務所の賃貸借契約書や顧客との業務委託契約書など、具体的な証拠をもとに運営実態を対外的に示すことが大切です。
つまり、運営実態を対外的に証明するための書類や証拠を整えることが、経営管理ビザの取得につながるでしょう。
経営者としての適性に欠ける
経営者としての適性に欠けると判断されれば、経営管理ビザが不許可になりやすくなります。入管審査では、審査官が過去の起業経験や学歴・資格、言語能力を通じて申請者の経営能力を測定すると同時に、本人の経営能力をもとに事業の持続性・継続性を判断するためです
経営能力を測定するうえで特に重視されるのが、過去の起業経験です。しかし、留学生や就労ビザで働いていた被用者が、過去の起業経験を証明するのは容易ではありません。
それでも、経営管理ビザを申請する前から、地方出入国在留管理局の許可を得て資格外活動にあたる個人事業活動に従事し、実績を蓄積しておくことが大切です。資格外活動での個人事業活動でも、十分な収益スキームが構築できていれば、起業経験としてみなされます。
在留資格の履歴に問題がある
在留資格の履歴に問題がある場合は、経営管理ビザの取得が難しくなります。経営管理ビザの入管審査では、過去の不法滞在や在留資格の更新漏れといった経歴の傷は、致命傷になりうるためです。
入管審査で致命傷になりうるのは、不法滞在や在留資格の更新漏れといった比較的大きな故意や過失だけではありません。ほかの在留資格への変更許可申請が認められなかった場合も、審査時のマイナス要因となります。
個人事業主は法人経営者と比べて信頼性の面で劣るだけに、在留資格の履歴を整理したうえで、過去の問題点があればクリアしておくことが大切です。過去の問題点を解消しておけば、申請者の信頼性が高まり、経営管理ビザを取得しやすくなるでしょう。
個人事業主で経営管理ビザを取得する際の留意点
個人事業主で経営管理ビザを取得する際の留意点には、次の2つがあります。
- 在留資格認定の場合は個人事業主で開業できない
- 「500万円の投資」として認められるためのポイントを押さえておく
これらのポイントは盲点になり得るため、ぜひ参考にしてください。
在留資格認定の場合は個人事業主で開業できない
冒頭で解説したとおり、海外に居住する外国人が新たに日本へ転居して事業を始める在留資格認定の場合は、個人事業主として事業を始められません。個人事業主の開業届を税務署に提出する時点で、住民登録が済んでおらず、日本に住所地がないためです。
したがって、個人事業主での経営管理ビザ取得は、留学生が卒業後すぐに個人事業で事業を始めるか、就労ビザで働いていた被用者が個人事業で開業する場合などに限られます。
「500万円以上の投資」として認められるためのポイントを押さえておく
事業規模の証明を「500万円以上の投資」でする場合は、投資(事業経費)として認められやすいポイントを押さえておきましょう。
たとえば、投資として認められやすいものには、次の費目があります。
- 事業所を開設する際に不動産仲介会社や物件オーナーに支払った仲介手数料や保証金、賃料
- 店舗型ビジネスにおける外装・内装の改装費用や設備購入費
- 事業活動を運営するために使用する業務用パソコンやデスク、来客用テーブルセットなどの購入費
- 許認可取得にかかる申請手数料や行政書士に支払った代理費用
- 事務所や店舗で勤務予定の常勤職員に支払われる給与
一方、投資として認められにくい費目は次のとおりです。
- 個人として住む賃貸用物件の敷金や家賃、仲介手数料など
- 航空券代やホテル宿泊費などの来日・滞在費用
- 事業と事業外の使用が区別しにくいスマートフォンの購入費
まとめ
個人事業主は法人経営者に比べて事業の持続性・継続性に関して懐疑的にみられる傾向があるため、経営管理ビザの入管審査は厳しくなりがちです。
しかし、個人事業主で経営管理ビザを取得するのは、決して不可能ではありません。ビザを取得できれば、個人事業主はコスト面でのメリットを十分に享受できるでしょう。
とはいえ、個人事業主が厳しい入管審査をクリアするためには、500万円以上の事業規模や安定した収益予測などを対外的に証明することが不可欠です。これらの証明には、専門性を要するため、ビザ申請にあたって、行政書士をはじめとした在留資格の専門家に相談するとよいでしょう。
記事の監修者

Eight Links 行政書士事務所 所長
蜂須賀 昭仁
2016年9月〜
VISA専門行政書士事務所
「Eight Links 行政書士事務所」を開業
専門分野 外国人在留資格申請、帰化許可申請
外国人の在留資格申請を専門分野とし
年間500件以上の相談に対応
講師実績
広島県行政書士会国際業務協議会 担当講師
中華人民共和国遼寧省鉄嶺市(外国人会社設立・経営管理)についての講師
運営HP
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広島外国人会社設立&経営管理ビザ申請代行センター
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広島帰化申請代行センター
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蜂須賀 昭仁
2016年9月〜
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専門分野 外国人在留資格申請、帰化許可申請
外国人の在留資格申請を専門分野とし年間500件以上の相談に対応
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